4時限目:エジプトの統一国家

みんなが最もなじみ深い古代の国であるエジプトは、メジェド先生の故郷でもあります。


エジプトはナイルのたまもの

エジプトはメソポタミアとともにもっとも古くから文化が発達し、統一王朝という面ではメソポタミアよりも早くに実現しています。エジプトがいち早く文化を発達させられたのは、なぜでしょうか。思い出してください。メソポタミアの人々は川の増水をうまく利用して農業を発展させてきましたよね。エジプトではナイル川を利用して灌漑農業が行われます。

ナイル川の上流のエチオピア高原には毎年5、6月頃に季節風がやってきて雨を降らせます。ナイル川は雨を集めて増水しますが、それが下流に達するのは7月に入ってからです。そして9月から10月にかけて水位は最高となり11月には減水していきます。増水し氾濫した川は肥沃な土壌を運んできてくれるので、エジプト人はその土壌を利用して農業を発展させていきます。毎年同じ時期に増水し、肥沃な土壌を運んできてくれるとわかっているのですから、非常に効率的ですよね。川の氾濫時期を正確に把握し、農作業に活かすために天文・暦法が発達したことをおさえておきましょう。

このようにナイル川はエジプト人の生活に欠かせない重要な役割を果たしていましたが、その様子を見てギリシア人の歴史家ヘロドトスは「エジプトはナイルのたまもの」という言葉をのこしました。

エジプトナイル説明

日本だったら、上流で雨が降った翌日にはすぐ増水しますね。ナイル川のように何ヶ月も遅れてやって来るというのはなんともスケールの大きい話で、日本人には想像しにくいかもしれませんね。

エジプトの統一国家

このようにナイル川の流域では早くから農業が行われ、多くの村落(ノモス)が分立していました。しかし、ナイル川の有効な治水のために共同で作業すること、それらを統率する指導者の必要性が高まり統一へ気運が高まっていきます。それらのノモスは、やがて上エジプトと下エジプトにまとまり、前3000年頃に上エジプトのメネス王が下エジプトを征服し、ファラオによる統一国家が作られます。

上下エジプト

*下と上が逆じゃないかと思うかもしれませんが、上とはナイル川が流れて来る方向つまり上流の方向を指していて、下エジプトは下流のデルタ地帯のことを指しています。

上エジプト:気温が高く、湿度は低い、降雨もほとんどない。農業を生業としている。

下エジプト:デルタ地帯、温暖多湿、地中海性気候。交易の中心で国際性に富むので文化が発達した。

最初の国家統一からアレクサンドロス王により征服されるまで約30王朝もあり、特に重要な時代を古王国・中王国・新王国に区分します。

*この区分法はB.C3Cのエジプト神官マネトーの『エジプト史』によるもの

古王国時代

皆さんがなじみ深いエジプトのイメージはこの古王国時代のものでしょう。あの有名なピラミッドは古王国時代のものです。古王国時代の情報を整理しましょう。

エジプト首都

・首都は下エジプトのメンフィス

・ファラオは神の化身として絶大な権力を持ち、全土を支配する(神権政治

・ピラミッドの建設

ピラミッド

皆さんはクフ王のピラミッドの大きさをご存知でしょうか。今は若干崩れてしまっていますが、建設当時は高さ146mもありました。前27世紀ころに建てられて、後14世紀にリンカン大聖堂に抜かれるまで、4000年近くも世界一の高層建築物でした。

このような巨大な建物を建設するには多くの人と長い期間をかけて建設する必要がありますね。多くの人を動かすには強大な権力が必要ですし、戦争や外敵の侵入などのない安定した時期にしか行えないことでしょう。ファラオの権力が非常に強力な時期だからこそピラミッド建設を成し遂げることが出来たのです。

とはいえ、奴隷のように働かされたわけではなく、ナイル川の増水期(つまり、農閑期)に3ヶ月程度建設作業に従事し、衣食住は保証されていたと言われています。

ファラオの強大な権力により繁栄した古王国時代も次第に衰えていきます。古王国時代はファラオのもとに権力が集中していましたが、それを実際に運営していくのは貴族や官吏たちです。事実上このような立場の人に権力が集まってくるわけですから、貴族や官吏が大きな力を持つようになるのです。

また、ファラオは神の化身なることで絶大な権力を手にしたのでしたね。そうすると当然、神を祭る神官が大きな力を持つことになります。

このように、貴族と神官の台頭によりファラオの強力な権力が失われたことで、各地のノモスが独立し、統一が失われてしまうのです。(統一が失われた時期のことを第一中間期と言います)

中王国時代

上エジプトのテーベが全土を統一し開いた第11王朝と次の第12王朝の時代を中王国時代といいます。

・中王国時代は古王国時代や後の新王国時代に比べてファラオの権力が弱い

・首都はテーベ

・シリア方面から馬と戦車を駆使した遊牧民族のヒクソスの侵入を受けて衰退、ヒクソスはデルタ地帯を支配(第二中間期)

この3点をおさえておけば十分です。

新王国時代

ヒクソスを追い全土を統一した第18王朝から第20王朝まで時代を新王国時代といいます。

新王国時代は、それまでの閉鎖的な性格から変わり、対外的に積極的な政策をとるようになります。前15世紀のトトメス3世はシリアやナイル川上流のヌビアを征服し、エジプト史上最大の領土を支配しました。外地の獲得により、多くの富がもたらされたのです。

メジェドせんせーメジェド先生の小話

「古代エジプトのナポレオン」

トトメス3世は多くの領土を確保したことから、古代エジプトのナポレオンといわれています。また、発見されたミイラから割り出した身長がとても低かったこともなぞらえているといわれます。(ナポレオンも身長が低いことは有名ですよね)実際には足先がもげていて、それを考慮していなかったのですが・・・

また、前14世紀のアメンホテプ4世は、内部の大改革(アマルナ改革)を行います。

・首都をテル=エル=アマルナに定め、自らもイクナートン(アトンを喜ばせるもの)と改名

・多神教の信仰を禁じ、唯一神アトンのみを信仰する(世界初の一神教といわれている)

・写実的なアマルナ美術が生み出される

この宗教改革は台頭した神官勢力に対抗するためといわれています。古王国時代は神官勢力の台頭により、ファラオの権力が弱くなってしまい、統一を失ったのでしたね。しかし、このような改革も彼の死で終わりを告げ、次の王のときにメンフィスへ遷都します。この次の王こそ有名なツタンカーメン王なのですが、彼はとても幼くして王になり、すぐに亡くなってしまったので、あまり業績はありません。この段階でアモン神の信仰も復活しました。(新王国時代はテーベの守護神であるアモン神の信仰が盛んでした。)

第19王朝では、ラメセス2世が前1286年ヒッタイトと戦った(カデシュの戦い)ことが記録されています。明確な勝敗はつかなかったようですが、ヒッタイトが優勢であったといわれています。

エジプトの文化

エジプトは太陽神ラーを中心とする多神教です。新王国時代には首都テーベの守護神アモンと結びつきアモン=ラーの信仰が盛んになりました。アマルナ時代にはこのアモンをはじめとした多くの神々の信仰を禁じ、アトンのみを信仰の対象としたのでしたね。ややこしいですが、アモンとアトンは別物です。

エジプト人は死後の世界を信じてミイラをつくりました。魂が戻ってくるときに、宿る場所が必要ですよね。だから肉体を保存しておくのです。ちなみにミイラの製造方法は値段によりいくつかあったようです。長く持つミイラを作るにはそれなりのお金が必要なんですね。また、魂が肉体を離れてから死後の楽園に入るまでを記した死者の書や装飾品などを添えて葬りました。

また、碑文や石碑などに使われる象形文字のヒエログリフ神聖文字)や、草からつくった紙(パピルス)に書かれる民用文字(デモティック)が使用されていました。文字があるからこそ、ここまでの歴史が解明されるのでしたね。なかでもヒエログリフは重要です。この文字を解読したのはフランス人のシャンポリオンという人物です。彼は19世紀にナポレオンがエジプト遠征した時に発見されたロゼッタ=ストーンに書かれた3種類の文字(上から神聖文字、民用文字、ギリシア文字)から、現在も使われているギリシア文字をたよりに2種類の文字の解読に成功したのです。

メジェドせんせーメジェド先生の小話

「頭を柔軟に」

ヒエログリフの解読には何人もの学者が挑んでことごとく失敗していました。というのも、表意文字だと考えていたからです。ヒエログリフをみるとライオンですとか、鳥の形をした文字がありますね。なにかライオンだとか鳥に関係した意味を持つ言葉なのではないかと推測したわけです。しかし、実際には表音文字だったのです。あくまで文字は音を表しているに過ぎなかったのですね。シャンポリオンは常識にとらわれずに、新しい発想で研究することで、それに気づいたのです。

表音文字と表意文字についてわかりにくいと思いますので補足します。例えば、漢字はどちらでしょうか?表意文字ですね。「鳥」という文字であれば、単に「とり」という音だけではなく、体表が羽毛で覆われた翼のある動物というような意味を持っていますよね。

一方、カタカナの「ア」という文字は、単に音を表していて、何か意味を含んでいるわけではありませんよね。これは、表音文字です。

暦法・天文が発達したことはもうやりましたよね。ナイル川の氾濫時期を正確に把握し、農作業に活かすために重要な役割を果たしました。太陽暦は1年を12ヶ月365日として、のちにローマで採用されてユリウス暦となりました。ナイル川の氾濫後の耕地を再測量するために発達した測地術はピラミットや神殿の建造にも大きく貢献しました。

今日はここまで。


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